2010年12月28日火曜日

1枚の記入書面の背後から

 前記事の「行政書士事務所」の物語から連想したとも言えますが、特に公的な書面がそうでしょうが、1枚の書面の背後に意識していないと見落としてしまう人間ドラマに直面する記入箇所があるものだな、と思います。

 例えば「離職証明書」。
 会社を辞めた時に雇用保険の被保険者証とともに、離職前6ヶ月間の賃金額を記入し、いわゆる「失業手当」の算定基礎額として使います。現在においてはそれだけではありません。格段に離職者証明の意味は大きくなっています。その意味は離職理由が「解雇」なのか「自己都合」なのか。あるいは「特定理由」離職という、正当な理由があれば、特別に自己都合退職でも特例が認められる離職も絡んできます。
 普通、解雇や倒産だと7日の待機後にすぐ失業手当が出ますが、自己都合退職だとおおむね3か月間の受給の制限期間があることをご存じの方も多いはず。
 現在では、自己都合離職と、解雇・倒産・正当な事由ある特定離職は年齢や勤務期間によって両者お互いの支給期間に大きな開きがあります。

 そこで問題は「離職証明書」の解雇理由に「どのように書かれるのか」ということが労使間の微妙な神経戦になることもあるでしょう。そしてここから個別労使関係問題が生じる可能性があります。1枚の紙の書かれ方において、働いていた側がそれをどう承認しるかということも、けして小さくない問題です。

 あるいは女性が結婚退職するとします。夫がサラリーマンだとすると、普通夫の健康保険の被扶養者になり、国民年金の第3号被保険者になれば、健保の保険料は払わずに済み、国民年金の保険料も一切かかりません。いわゆる「専業主婦」メリットです。しかし、もし雇用保険で「失業給付」をもらうとすればどうするか?失業給付は収入か?実は失業手当は収入なのです。そしてその収入は前年度ではなく、即時でみられますから、場合によって給付を受けながら社会保険の被扶養者になると、それがバレないこともないとはいえません。
 そのため、今度は健康保険の被扶養者届で会社は妻が現在無収入であることの証明印を押してあげねばなりません。会社は責任が伴いますから、めくら判は押せないでしょう。

 あるいは社会保険は郵送で送付することが出来ます。しかし、基本的に資格の取得届は5日以内に、となっていますから送付時期がいつか、5日目の郵送印ならOKなのか、5日目に保険事務所に届いていなければいけないのか。
 資格取得届はある程度融通が利くようですが、会社を辞めても自分で健康保険に加入する「任意継続被保険者」の届け出はキッチリ20日以内まで、と決まってますから、1日遅れたら即アウトです。すると、20日目の郵送印があればいいのか、あるいは20日目に事務所に届いていなければいけないか、どちらか。答えは後者なのです。それだけ任意継続の健康保険の資格取得は厳格なのです。

 行政は厳しい、と言えるかと言えば確かにそうですがとはいえ、民間の契約でも内容証明郵便から始まり、公正証書、供託、印紙付き契約書、云々。1枚の法的な有効書類の効力は重たく、その背後に人間のもろもろな感情のひだ、葛藤、不安、思い入れ等々が含まれている、ということを考えざるを得ません。

 その辺りを上手く突いてくれるマンガが「カバチタレ!~特上カバチ」で、それは法律マンガであるだけでなく、法律上必要な手続き書面に関わってもいるところがより一層リアルです。しかし、上気したようにひとつの「書面」には法律の裏付けがあり、法律の背後にはルールに伴う人間のもろもろの(ドロドロともした、あるいはグッとくる深い思い溢れた)感情や思いが含まれているものだなぁということが分かります。

 事務の仕事を専業にされてきた来た方もいまの訓練校にいます。詳しく話したことはありませんが、10年くらいもその道で働いた人であれば、きっと見たくもない場面、聴きたくもない話を耳にする機会もきっとあったことでしょう。それが直の人と人との対峙する場面ではなく、「書面」の背後の中に見える、もろもろの諸事情を覗いた、想像出来て来た。ということがあるような気がしてなりません。

 やはりある程度一つところで長く働いてきた人はルーティーン・ワークの連続であれ、そこから、世界の小さな小窓から大きな世界の一端を覗いてきた、ということがあるのかも?と思います。
 だから一義的には生活するための仕事だけれど、もしも仕事がそこそこやりがいがあるのだとしたら、小さな小窓(あるいは人により、大きな窓)から社会観や世界観を無意識のうちに感じ取れることが出来るからじゃないかな、と思ったりします。

 いやいや。本日も大きく出てしまいましな。すみませぬ。

 話を現実的なところに戻して一つ。高校卒業までに学んでほしいことがあります。それは「労働契約書」(パート労働も含む)、「給与明細書」の読み方を教えてほしいということです。より贅沢言えば、「確定申告の仕方」も。
 憲法はおおまか学ぶと思いますが、逆に労働と賃金から憲法25条、権利と義務関係、そして憲法前文と遡る。そして日本国憲法の理念を学ぶ。そちらのほうが憲法がリアルに若者に理解できるのでは。理念型から入れば、暗記を強要されるようで面白くないはずです。

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