2010年12月25日土曜日

特上カバチ 22巻


 けっこう前なんだけど、とても久しぶりにマンガ喫茶に行って手に取ったのがこの第22巻。思い切り引きこまれ、恥ずかしながら涙が出てしまいました。
 子どものネグレストの話。理不尽に捨てられた母が、その捨てた夫に似ているということで、愛してたが故に憎さ倍増になって元の夫の面影が顔に見える息子を虐待。
 それを良い意味でのおせっかいにより子どもの救済に向かう行政書士事務所勤務の栄田。
 彼にも複雑な家庭事情が背景にある。暴力をふるう父に育てられたのだった。であるがゆえに、理屈を超え、世間体を超え、彼が身体で知っている「真実」とともに走る!
 同時に彼は虐待する母親を責めたりしない。母親が置かれた経済的苦境や独りで子を育てねばならない苦しさ、それを受け止められない周囲や社会があることがわかるから。彼は母も「何か」の犠牲者だと認識しています。
 密閉された部屋でヒステリカルになった母親に折檻される子ども。謝り続ける子ども。それでも、そんな母親でも唯一、自分を守ってくれる存在だと疑わず、全面的に自己の身を捧げている男の子。そんな場面には思わずグッときます。
 そのようないたいけさに触れるとき、流石に母も自責をし涙するんだけど、やはり日が経つと同じ間違いに戻ってしまう。これも、現実にありそうな本当に悲しい事態。

 最終的には折檻が高じて子どもが救急車で運ばれる事態にまで悪化してしてしまうのだけれど。。。

 その後の展開はこのマンガで確認してほしいですよね。

 このマンガは主人公は行政書士の田村くん。まだ書士になってからそんなにキャリアを積んでない(?)若者なんですが、極めて真面目な、だけど若いが故にまだ少し世間の深いところを知らないところがある。(人のことがいえるか!←自分にツッコミw)。
 しかし、彼の良さは失敗を糧として深く自省して次の段階に一段一段上っていくところ。おそらく一番サラリーマン層読むであろう、この「週刊モーニング」誌読者にとって、一番感情移入できるのは彼でしょう。

 しかし、この巻に限らず彼の先輩に当たる栄田氏は人情物に関して主人公になると、実に泣ける、泣ける。特にこの巻は自分の子ども時代の具体的な家庭生活が記憶として描写され、そのシーンも泣けるのだ。
 男気に溢れ、細かな事務作業は苦手でも、他者が関わりにくい人の心の機微に触れるときは大概腹を据えて彼は入って行くんだけど、その時の馬力は半端ない。

 彼らの直の上司であるシゲさんは基本的に他人の家庭のプライバシーに法律家は踏み込んではならない、がポリシーであるので、一線を超えると栄田氏がその点で価値観の対立が先鋭化し、何度か辞表を用意するところまで行くんだけれど、このシゲさんという存在のバランス感覚と包容力も、実は影の読みどころ。

 原作者の田島隆さんは前も書きましたが、中卒後下積みの仕事を続けながら行政書士の資格を取り、そしてこれだけクオリティの高い等身大の人々のドラマを書き続けてきたのだから、本当に凄い。「カバチタレ!」で20巻くらい?同時にアフタヌーン誌で「極悪がんぼ」も長い。カバチタレ!の継続で「特上カバチ」が現在23巻で、私はこれだけの長期連載でこれほどクオリティが下がらない作品は他に知らないです。

 いままでこれだけの仕事をしてきたのだから、「ロックンロールフェイム」ならぬ「マンガの殿堂」入りしてもおかしくないと思うんだけど(笑)。
 ただ、画を描いているのが「ナニワ金融道」を書いていた青木雄二氏の直系の弟子で東風孝弘という人で、ゆえに絵柄が生理的にどうしても苦手だ、という人が多いのかもしれない。しかし庶民リアルな物語にこの絵はある意味合っているし、もはやこの絵でないと無理、とも思う。

 この東風氏の従兄弟が誰あろう田島隆氏で、故にコンビネーションも良いのでしょう。

 実はいまは亡き青木雄二氏は田島氏から法的な知識を吸収していたようで、「ナニワ金融道」ラストストーリーの圧巻である裁判官を騙す「ゼロ号不渡り手形」作成、というストーリーは田島氏のアドバイスがあったという噂があります。
 

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